1週間以上も水がない生活はキツいな…。
アメリカ南部ミシシッピ州の州都、ジャクソン。テキサス州ダラスが1,000年に一度の豪雨に見舞われた同じ週に、200年から500年に一度の豪雨によって市内を流れるパール川が氾濫し、上水道施設を直撃。街の大部分が水不足に陥るなど、さまざまな問題が発生しています。
水道処理施設に洪水、水の供給がストップ
川の氾濫によって、当初は18万人が安全な水を手に入れられなくなりました。当局が懸命に復旧作業を続けていますが、水道処理施設が洪水被害に遭ってしまったため、安全な飲み水が提供できない状況が続いています。ミシシッピ州のTate Reeves知事は先週、非常事態宣言を発令。会見で次のように述べています。
どうか安全に過ごしてください。浄化されていない汚水が混入していますので、水道の水は飲まないようにしてください。
市当局は当初、水不足は数日で回復するとの見込みを発表していましたが、9月7日現在もまだ15万人以上に飲料水が供給されない状態です。当局は水の使用前には必ず沸騰させるよう、そして沸騰させても歯みがきに使わないよう呼びかけています。市は緊急措置としてボトル水の配給を行なっています。9月7日時点である程度復旧の見通しは立ってきているようですが、まだ時間はかかりそうです。
7日には、環境保護庁(EPA)のマイケル・リーガン長官がジャクソンを訪れ、州知事とジャクソンのChokwe Antar Lumumba市長を交えて、今後の対応に関する話し合いが持たれました。建設的な話し合いだったとEPA長官は述べています。
I had a productive meeting today with @tatereeves@ChokweALumumba@SenHydeSmith@SenatorWicker@BennieGThompson@RepMichaelGuest where we discussed the urgency of working together to support the people of Jackson and develop near and long-term plans to stabilize the water system. pic.twitter.com/kGoivdRrXX
— Michael Regan, U.S. EPA (@EPAMichaelRegan) September 7, 2022
今始まったわけじゃないジャクソンの水問題
ジャクソンにおける水の問題は、近年ずっと頭痛のタネなのだそうです。今年1月にはEPA に、7月には保健当局によって健康を害するかもしれないレベルの汚染が検出され、改善を要求されています。住民は7月以降、水道水を沸騰させてから飲むよう求められていました。そこに洪水が追い打ちをかけた形に。市長によると、市の水道システムの修繕コストが最大2億ドル(288億円)必要なのに対して、予算は7,500万ドル(108億円)しかないとのこと。
別の報道によると、連邦政府と州、市のプログラムを合計すると、1億6600万ドル(240億円)確保できる可能性があるようです。それでも足りないですね…。
黒人コミュニティーへの投資不足が問題の根本という指摘もあります。ジャクソンは人口の80%を黒人が占めます。白人のジャクソン離れによって税収が減り、市が単独で水道インフラを修繕するのが難しくなりましたが、州や連邦政府からの支援もないため、徐々にインフラが脆弱(ぜいじゃく)になり、今回のような深刻な気象災害の影響を受けやすくなっていたとのこと。
共和党の州知事と、民主党の市長の折り合いがうまくいっていないことや、共和党が過半数を占める州議会が、民主党が強いジャクソンへの支援を拒んでいることも、洪水後の対応の足並みがそろわない原因になっていると見られています。
環境団体のWWFはThe Hillの取材に対し、有色人種のコミュニティーは白人コミュニティーのように重要視されないため、注目も集まらず犠牲にされやすいと指摘しています。
気候変動の脅威が迫る水道システム
ジャクソンで起こっている水道システムの問題は、これから気候変動が進むにつれてより顕著になると考えられています。アリゾナ州立大学のMikhail V. Chester教授は、気候が変化するスピードにインフラが置いていかれていると言います。
今夏、1,000年に一度の豪雨に見舞われたケンタッキー州では、洪水によって2万5000人が飲み水を失いました。数週間にわたって水道が止まった住民もいたそうです。また、テキサス州フォートワースでは、熱波と干ばつによって乾ききった土壌がずれたことで水道本管の破裂が相次ぎ、報告件数は例年を上回る勢いでした。テキサス州といえば、2021年の大寒波で、上水道施設の凍結や水道管破裂などの理由によって、州民の約半数が平均で2日以上、水道水にアクセスできなくなったのは記憶に新しいところです。
安全な水へのアクセスの問題は、アメリカ全土に広がっており、米国土木学会による報告では、アメリカの水道システムを正常化するためには、2兆2000億ドル(317兆円)の投資が必要になるそうです。
途方もない額ですが、気象災害が今後ますます激甚化していくことを考えると、何かが起こってから場当たり的に対応するよりも、最も弱っているところから修繕していく方が得策なのではないでしょうか。テキサスの大寒波で水道が2~3日止まりましたが、飲み水だけじゃなくて、料理や洗い物、洗濯、シャワーに水を使えない生活は、衛生面でも本当に大変です。洪水で水道が止まった後に40度超えの熱波に見舞われて、そこに大停電が重なったら…。
Reference: The Washington Post, Earther Gizmodo US, City of Jackson (1,2) , Michael Regan, U.S. EPA / Twitter, Clarion Ledger (1,2) , AP, E&E News, Vox, The Hill, The New York Times, City of Fort Worth, University of Houston, NPR