悪用すると罰金1億円。Tileが「盗難防止モード」を追加

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悪用すると罰金1億円。Tileが「盗難防止モード」を追加
Image: Wirestock Creators / Shutterstock.com

失くしたものを見つけたいだけなのに。

今、紛失防止タグ(AppleのAirTagなど)を悪用したストーカー犯罪が増加中。そんななか、大手で第一人者でもあるTileは、ストーカー対策機能を事実上無効化する「盗難防止モード」を追加すると発表しました。同社では昨年から身に覚えのないタグを検知する「スキャン&セキュア機能」を提供していましたが、盗難防止モードはその機能から「見えなくする」オプションです。

もちろん、Tileが「元恋人のカバンに追跡タグを仕込む行為」を応援しているわけではありません。悪用された場合はすべてのデータを警察に提出するほか、有罪判決を受けたストーカーには100万ドルの罰金を科すと公言しています。

盗難増加で「顧客が対策を希望」

2021年の買収後、Tileは家族向け位置情報共有会社のLife360が所有しています。同社は16日のプレスリリースで「ユーザーは当社の追跡技術を搭載した他製品を含め、すべてのTile製品で盗難防止モードを使用することができる」と発表しました。自分のものではないタグを無効化できるという事は、盗難に遭ったときに盗んだ相手が追跡を逃れられるということ。最近では盗難事件が増えていることから、この新機能は「顧客の要望」によるものだといいます。

ただTile側は、どれくらい盗難が増えているか、といった説明はしていません。そのかわり、10年近く前に国連が出した「薬物と犯罪に関する報告書」や非営利リサーチ団体のCouncil on Criminal Justice(刑事司法評議会)による「財産犯罪の増加に関す報告書2022」を引用しています。昨年、Tileではストーカー防止のため「スキャン&セキュア」ツールを搭載したばかりですが、わずか1年でそれを事実上無効化する機能を追加したことになります。

Life360の広報担当者は米Gizmodoへのメールで「すべての盗難案件がTileに報告されているわけではない」ため、Tile盗難についての情報はない、と述べています。ただ、Tileデバイスが盗まれるケースが増えており、顧客から「盗難対策」を求める声が上がっているとのことです。

Appleは通知機能で対策

Appleもまた、AirTagを悪用したストーカー被害に関する批判や訴訟の対応に追われています。同社はiPhoneに、自分のものではないAirTagが近くにあると通知音で知らせてくれる機能を搭載(Androidユーザーはまったく別のアプリをダウンロードする必要があります)。

Tileは盗難防止モードについて、「(通知をしてしまうと)泥棒に“盗んだ品は追跡されてるよ”と教えることになり、持ち主などが位置を確認する前に撤去され、取り戻すことができなくなってしまう」と主張。

TIleは本人確認と罰金でストーカー防止

盗難防止モードはストーカー対策には逆行する気がしますが、そこはTileも対策を講じていて、このモードをONにするには生体認証スキャンおよび政府発行のIDを提出する義務があります。Life360の広報担当者によると、IDを含むすべてのユーザー情報は、第三者のID認証企業であるBerbix社に保存されるとのこと。同社は、データを販売したり収益化したりせず、「認証や詐欺検出の目的で情報が必要なくなった時点で」生体情報を破棄するといいます。

さらに、TileとLife360は「ユーザーの個人情報は召喚状の有無にかかわらず、法執行機関と積極的に共有する」としています。

2021年当時、Life360はユーザーの位置情報をデータブローカーに売り渡す企業として報道されていました。実際、同社はユーザーデータを事実上「買いたい人なら誰にでも売る」ことに大きな投資をしていますが、昨年、詳細な位置データの販売は中止すると発表しています。

それだけではストーカー被害者やその予備軍の方への安心材料としては不十分でしょう。なので同社はこれに加えて、「Tileデバイスを使って本人の認識や同意なしに個人を違法に追跡し、法廷で有罪判決を受けたすべての個人」に対し100万ドル(約1億3490万円)を科すとしています。

Appleはストーカー対策として、自分のものではないAirTagを持ち歩いていると通知音で知らせてくれる機能を搭載していますが、Tileはこれを「被害者保護には不十分」と批判しています。たしかに一理あるかもしれませんが、Tileはハイテクを駆使したストーカーの危険からユーザを守る代替案を出すこともなく、ただ手をこまねいているように思えます。

ストーカーか盗難かを「選択」?

Life360のクリス・ハルズCEOはTileのオプションを「選択」と呼んでいます。つまり、自身のデバイスを見えるようにするか、見えないようにするか、ユーザーが選べるということ。もしも「安心して夜ぐっすり眠りたい」という思うなら、デバイスを他のユーザーから見えないように設定する方を選べばいいということ。

Tile側「通知よりID登録の方が安全」

ハルズ氏は自らAirTagのテストを行ったようで、15日のブログには自分のものではないタグを検知するのに「数時間から数日かかることがわかった」と投稿しています。

「優れた位置特定デバイスは、優れたストーカーデバイスにもなるのです」と彼は記しており、不要な位置情報タグの存在を正確かつタイムリーに通知することは「ほとんど不可能だ」と主張しています。

ハルズ氏は、真に必要なことは不要なタグを簡単に検出できるようにすることではなく、「すべての位置情報対応デバイスのID登録など、安全装置を実装すること」であると述べました。

つまるところ、2大製品のどちらにおいても紛失防止タグを使用する場合は、Appleならスマホやスマートウォッチ、Tileなら本人確認IDなど、個人情報と紐づけることが求められるようです。そうでなければ、ストーカー被害に遭う恐れのある方は「悪意ある人がBluetoothトラッカーを仕込んでるんじゃないか…」とおびえ続けなければならない、と。

(物を失くしたくないから追跡できるアイテムがほしかっただけなのに、なかなかむずかしいことになっているんですね…。)