個人情報。データの取り扱いには普段から気をつけているという人、スマホやパソコンだけでなくクルマにも注意していますか?
非営利団体Mozilla Foundationの最新調査で、ここ数年間に製造された自動車は、ドライバーのデータを収集しまくっているという結果が明らかになりました。
愛車は身近なスパイ?
Mozillaが行なっている個人情報に関する取り組み「Privacy Not Included」プロジェクト。インターネットにつながるさまざまなガジェットの安全性を調査しています。その最新調査報告は自動車に関するもの。
調査対象となったのは、BMW、フォード、トヨタ、Tesla、日産など大手25社。ほぼすべてのメーカーのネット接続可モデルにおいて、基本的なプライバシやセキュリティ基準が守れていないことがわかりました。
自動車から収集されるデータは、人種、ドライバーの表情、体重、健康状態、運転して向かう先などさまざま。一部の車では性的活動や移民情報など、まさか車が収集するとは思いもしないデータまで…。
プロジェクトを率いるJen Caltrider氏は、調査報告のプレスリリースにてこう語っています。
「多くの人が自分のクルマの中はプライベートな空間だと考えています。
病院に電話したり、送迎中に子どもと話したり、フラれて大泣きしたり。時には人には知られたくない場所に運転して向かうこともあるでしょう。
しかし、自動車がプライベートな空間だという考えは、今はもう通用しないのです。最近の新車は、膨大な個人情報を収集するタイヤが付いたプライバシー侵害マシンなのですから」
昨今の自動車は、カメラやマイク、電話など多くのツールを通して乗車する人の情報を収集できてしまいます。メーカーはアプリやウェブサイトを介してデータを収集、やろうと思えば第三者にそのデータを販売することだってできてしまうのです。
プライバシーにおけるワーストは日産
Mozillaの調査でワーストランクなのが日産自動車。
日産のプライバシー規約を見ると、ユーザーの性的行動、健康状態、遺伝データなどを収集しているものの、それらのデータを具体的にどう集めているのかは詳細が明かされていません。
また、収集したデータにおける「好みや特性、心理的トレンド、傾向、行動、雰囲気、知能、素質」を、データブローカーや法的期間、第三者と共有・または販売する権利は日産が保有するとあります。
これに対して日産の担当者は「個人データを収集、共有する場合、適用されるべき法を遵守し、最大限の透明性を提供しています」と語っていますが…。
他社もどんぐりの背比べ状態
日産がワーストではあるものの、では他社はいいのか?というとそうでもなくて。例えばフォルクスワーゲンは、シートベルトやブレーキの動きに関するデータを収集し、ドライバーの性別や年齢とマッチさせたターゲット広告を展開。
韓国の起亜自動車のプライバシー規約では、「性生活」をモニタリングする権利が保有されています。メルセデスはプライバシー保護が疑問視されるTikTokをシステムにプリインストールした自動車を出荷しています(メルセデス担当者はMozillaの報告書をまだ確認していないとしつつ、ユーザーの車内での情報を販売していないとコメント)。
また、データを収集するためのユーザーへの同意の取り方もめちゃくちゃ雑です。例えばスバル。所有者・運転者に限らず、スバルの車に乗ることで、データ収集に同意したユーザーだとみなされてしまいます。
これはスバルに限らず多くの自動車メーカーが、プライバシー規約について同乗者に伝えるのはドライバーの責任だと捉えているからです。
トヨタなんてプライバシーに関する規約が12種類もあるというのに、それをドライバーが熟読し同乗する人に説明しているよね?なんて、ハードルが高すぎます。
収集したデータは暗号化されている?
データを収集しているだけに留まらないクルマとデータの取り扱い問題。Mozillaの報告によれば、各社、収集したデータを暗号化できているかどうかまでは確認が取れなかったそう。
プライバシーウォッシング
Mozillaが危惧しているのは、各社のプライバシーウォッシング。これは「個人情報ちゃんと扱ってるから大丈夫ですよ。心配ないですよ」とアピールし、消費者を洗脳すること。実際はその正反対の立場にあるというのに、です。
米国では、多くの自動車企業が米自動車イノベーション協会の定める「消費者のプライバシー保護原理」に署名していますが、そもそもこの組織自体が自動車企業が作る団体であり、なんら強制力・意味を持つものではないからです。
Mozillaの報告書への対応なのか、9月5日付で自動車イノベーション協会は、プライバシー保護原理について米議会に宣言書を提出、いわく「これらの原理は米連邦取引委員会による強制権がある」とのことですが、さてどこまで厳格に行われるものなのか…。
なんにせよ、車内=プライベート空間という認識は捨てて行動したほうが良さそうです。
Source: Mozilla