イーロン・マスクがウクライナの激戦地でネットを遮断して年580億円を要求

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イーロン・マスクがウクライナの激戦地でネットを遮断して年580億円を要求
Image: Alex Konon / Shutterstock.com

無料で広めて遮断&請求。

ウクライナに衛星スターリンクからインターネットを提供して一躍英雄になったSpace Xのイーロン・マスクCEOですが、昨年10月、南部領土紛争地域への前進の際、ネットを故意に不安定にして高額な料金を請求していたことがわかりました。

The New Yorkerが外交筋と軍部に取材して報じたもの。司令部と連絡がとれなくなってウクライナ軍はパニックに陥り、撤兵を余儀なくされたと米軍上層部は苦り切っています。

記事にはこんな通信兵の生々しい証言も。

前線まであとわずかというところでいきなり通信が途絶えて各部隊が孤立したんですよ。

突撃するときには、司令官にとって大隊からの情報が要。しかたないので、無線の届く圏内まで車で移動して自らの命を危険に晒していました。

控えめに言ってカオスでした

スターリンクって何?

スターリンク(Starlink)はイーロン・マスクがしょっちゅう空に打ち上げてる通信衛星の大編隊。

何千もの低軌道衛星が空に連なる姿は「星座」に見えなくもないことから「衛星コンステレーション」と一般には呼ばれています。

地球全域にネットを届けることが可能日本の山小屋でもOK。アンテナと電源さえあれば、基本的にどこからでもネットはつながります。

ロシアに通信インフラを破壊・強奪されたウクライナにとっては、復旧までの間をつなぐ命綱です。

ロシア侵攻の4日後に寄贈、最初は絶賛の嵐で迎えられた

2月下旬、ウクライナのデジタル改革大臣が直々にTwitter上でマスクCEOに提供を要請したときには、その日のうちにネットがつながって世界中がオオオオー!となりました。

(受信機)届きました。ありがとう」とウクライナのデジタル改革大臣が喜んでいます。

まさかその後、そんなことになっていたとは…。

戦況が泥沼化するにつれロシア寄りに

記事を読むと、戦況が長引くにつれて、だんだん雲行きが怪しくなってきた様子が手に取るようにわかります。

最初の接続セット約5,000台は、シリコンバレーのウクライナ系実業家などからの募金とSpaceXの持ち出しで賄えたので、みなハッピーでした。

でも追加の納入とメンテナンスには先立つものが必要。マスクCEOは無償で続けるには限界があると感じ、実戦でスターリンクが使われることにも次第に難色を示しはじめます。

昨年9月にアスペンで開かれた政治家・実業家が集うカンファレンスでは

ロシアの3分の1の人口では総力戦で勝ち目はないんだから和平交渉に応じるべき。

とプーチンみたいなことを口走ってウクライナ政府高官の逆鱗に触れてしまいます。

さらに10月上旬にはTwitter(現X)上で「クリミア半島でのロシアの主権承認、ウクライナ中立化を含めた和平案」の是非を問うネット投票をやってまたウクライナの怒りを買っていました。

ゼレンスキー大統領が「ロシア支持のマスクとウクライナ支持のマスク、どちらが好き?」というネット投票で応じる一幕もありました。

「4億ドル払わなかったらアクセスを遮断する」と米国防総省に通告

この時期からネットが急に不安定になる現象が起こり、同10月には

来年10月まで1年間ネット接続サービスを提供するには米政府に約4億ドル拠出してもらわないと続けられない。ネットのアクセスは遮断させてもらう。

とSpaceX社から米国防省に通告が舞い込んだというわけです。

これを受けて、ネット遮断を思いとどまるよう説得したのは米国防省政策担当国防次官。場所はエッフェル塔を臨むパリのホテルの一室です。

独仏英の政府高官との会合が終わって自室に戻ったところで、側近にiPhoneを渡されイーロン・マスクに電話をかけるよう頼まれ、最初は「なんで自分が(政治家でも外交官でもない一民間人の)イーロン・マスクに電話しなきゃならないのだ」と次官もずいぶん驚いていたのだそう。

やがて両者一歩も引かないスタンドオフ(こう着状態)になり、米軍上層部もマスクCEOがその気になれば『いつでもネットをOFFにしてウクライナの国家運営を混乱に陥れることができる事の重大さに目覚めて「ちょっとしたパニック」になったと米軍高官は振り返っています。

昨年12月には米国防省がウクライナに衛星通信の受信機とサービスの提供を発表しましたが、「SpaceXから買う」とは明示されていません。

委託先がはっきりしたのは今年の6月1日になってから。そういう水面下の駆け引きがあったから、契約台数も金額も具体的なことは何ひとつ明らかになっていないのかもしれませんね。

マスクがキレるとネットも切れる

スターリンク供与の関係筋はみな匿名を条件に取材に応じているのですが、その理由というのが「イーロン・マスクが怒るとサービスを止めるかもしれないから」というもので、これも青ざめるポイントです。

富豪が戦局を左右することは過去にもありましたが、これだけ目に見えるかたちで表に出るのは初めて。あまりにも前例のないことで法的にどうなのかもよくわかりません。

しかも、マスクは最近ケタミン漬けという話も。仕事中もケタミン(解毒性麻酔薬)手放せないって話が6月WSJに報じられ、「薬物の副作用であんな支離滅裂やってんじゃないか」というもっぱらの評判です。とても戦局をまかせられる相手じゃありません。

ジオブロックが世界を動かす

ネットが遮断されたとき、スターリンクの提供を支援したウクライナ系アメリカンたちの電話は鳴りっぱなし。

あるウクライナ系の企業家は軍高官に「イーロンを大至急捕まえてくれ」と頼まれて「どれくらい急ぎですか?」と聞いたら「今すぐだ。人が死んでるんだ」と言われたのだとか。

こうした赤裸々な証言箇所は現在X(旧Twitter)でも拡散中です。

ちなみにネットが切断したのは、ヘルソン、ザポリージャ、ハリコフ、ドネツク、ルハンシクの各地域(The Financial Timesより)。どこもロシアと戦火を交える激戦地です。

米ウクライナ両政府上層部は、SpaceXがジオフェンシング(日本ではジオブロックの呼称が一般的。接続機器のIPアドレスをもとに特定エリアのアクセスを遮断すること)で接続を遮断して局地的にアクセスを封鎖したとの見方を強めています。

Sources: The New Yorker

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https://www.gizmodo.jp/2023/01/starlink-got-cheeper.html