植木鉢って、アパレルなのかも。
ブランド立ち上げから間もなく人気となり、非常に入手困難な植木鉢ブランド「RAW LIFE FACTORY」をご存知でしょうか。
一目でハッとさせられる強烈なインパクトのデザイン、植木鉢らしからぬ黒っぽい色彩など、従来の植木鉢のイメージを覆すその作品群は、アパレル業界からも高い評価を得ています。
そんな「RAW LIFE FACTORY」を手がける陶芸家・田島浩司さんに、植木鉢のおもしろさからブランドの哲学、そして新たに始まったアパレルについてお聞きしました。
インスピレーションは「自然」と「夢」。こだわりが黒い植木鉢を生んだ
──「RAW LIFE FACTORY」というブランド名と陶器/植木鉢の組み合わせが新鮮に感じました。この由来は?
田島:シンガーソングライターのCaravanさんのファーストアルバム『RAW LIFE MUSIC』です。僕がその音楽に助けられたことから、独立するときはずっと「RAW LIFE FACTORY」という名前にしたいと考えていました。
──陶芸で作る器にはさまざまなものがありますが、初めから植木鉢を作ることに決めていたのでしょうか?
田島:独立した時点では食器など色んなものを作りたい思いもあったのですが、最初に注文をいただいていたのが植木鉢だったんです。もともと自分でも植物を育てていたので「こういう植木鉢があったらいいな」と思うものを作っていきましたが、植木鉢って底にある程度のボリュームがないといけないから、デザインに制約があるんですよね。だから「半年ぐらいで案は尽きるだろうな」って最初は思っていたんです。
──たしかに。同じ植物とはいえ、植木鉢と花瓶とでは全然自由度が違いますよね。
田島:でも、自分の中で何かが覚醒してどんどんアイデアが出てきて(笑)。今もまだ作っていない植木鉢のデザインスケッチがたくさん部屋にあるんですよ。
──「RAW LIFE FACTORY」の植木鉢はどれも強烈なインパクトがありますが、デザインのイメージソースやインスピレーションはどこにあるのでしょうか?
田島:自然です。多くの作家さんはよく「自分と向き合え、自分の中から出てきたものじゃないと表現じゃない」ということを言いますし、自分も独立する頃に師匠にそう言われました。でも、自分の場合、散歩して見つけた木の質感だったり、てんとう虫の形だったり、クラゲの形だったりといった、自然からインスピレーションを受けてデザインを作ることが多いですね。
──色も黒っぽいものが多くて静謐で、ものすごく高級な茶椀のような印象を受けました。
田島:ありがとうございます。器には格式みたいなのがあるんですけど、一番上に茶道があって、次に日用品があり、最後に植木鉢があるんです。というのも、植木鉢は底に穴が空いているので、器としての機能が不十分ということで一番下の格式になっているわけです。自分としてはそこがまたおもしろいところだと思っていて、そんな植木鉢を茶陶みたいなところまで高められたらすごいと考えています。
──そうだったんですね。
田島:自分自身、家にちょっと植物があるだけで心が豊かになるんです。だから、そういう文化を世界中に広めるのが自分の夢です。
──また、「RAW LIFE FACTORY」の植木鉢は色も特徴的ですよね。黒っぽいものが多いというか。
田島:そうですね。「黒い器を世界一のクオリティで作りたい」と思っています。普通、黒い器を作ろうと思ったら、焼いたら黒くなる土を使ってその上で釉薬をかけるんです。でも、それでは自分の理想の黒が出ないので、「RAW LIFE FACTORY」ではキャンバスとなる土をなるべく白くして、そこに最高の配合をした釉薬をかけるというやり方を試しています。通常よりも扱うのが難しい磁器土という真っ白な土を使っているので、生産が難しいという難点はあるのですが、そこは自分の中でのこだわりですね。
──なるほど。そして、その「黒」もただ真っ黒を目指しているわけではないですよね。
田島:それがおもしろくて、夢で「理想の黒」を見たんですよ。そこには自分が作った黒いお皿があって「これはすごいな…!」と思ったんです。それから約3年後に作った作品の中にそれに近いものがあったんです。黒の中に、その漆黒のような黒があって、それはただの黒じゃなく、青と茶色とが混在しているんですよ。そして、ちょっと赤っぽいものもある。それらが混在したときに、自分の中で一番いい黒が出るんです。まあ、自己満足ですけど(笑)。
「RAW LIFE FACTORY」とアパレルの高い親和性
──現在「RAW LIFE FACTORY」の植木鉢は非常に入手が困難な状況にありますよね。
田島:お陰様で独立してから在庫を抱えたことがほとんどないんです。当初はインスタグラムでの情報発信やBASEでの販売だけだったんですけど、その時点で反響があって嬉しかったです。そこからいろいろな植物屋さんに扱っていただくようになり、やがてメディアやアパレル関係、芸能人の方々からも紹介いただくようになって、熱がどんどん高まっている印象があります。それについては「どこまで続くのかな」とも思いつつ、その熱を「どこまでも続かせるぞ」というつもりでやっています。
──自前のインスタの時点で反響があったとのことですが、ご自身では人気の理由をどう分析していますか?
田島:普通の植木鉢にはない形だったので、そういったものを求めていた方々に買っていただいたという感じだと思います。アジアの方でも植物や植木鉢の文化があるので、「欲しい」という連絡をいただくことが多いですね。
──アパレル業界から「RAW LIFE FACTORY」が評価されていることについてはどう思っていますか?
田島:実は植木鉢って服と同じなんですよ。
──えっ、植木鉢と服が同じ?
田島:植物好きは、自分が育てている植物に対して「良い服を着せたい」と思うんです。そこがリンクしているから、アパレルの方々から「植物っていいよね」って声が多いと思うんです。
──なるほど。植物じゃないですが、アパレルとiPhoneケースとの相性の良さに納得がいった気がします。
田島:ああ、たしかにそれとも近いと思いますね。
──植える植物は具体的に想定されていますか?
田島:最初はコーデックス(塊根植物)の需要があったのでそれに合わせて作っていたのですが、それだと敷居が上がってしまうので、とにかくいろんな人が使えるようなものを考えています。だから、パンジーとかマリーゴールドとかでも、雑草でも、野菜でも、何でもいいのでぜひ植物を植えて育ててほしいなと思っています。
──ちなみにそんな「RAW LIFE FACTORY」は何人のスタッフで運営しているのでしょうか?
田島:私と妻の二人だけで、自分達でできる範囲でやろうと思っています。生産数が少なくてお客さんに対しては申し訳なく思っているのですが、やはりこだわりがありますし、どんどん妥協ができなくなってきて、年々作る量が少なくなっているのが現状です。本当に焼き物って大変で、焼いてみないとわからないし、一つの植木鉢を作るのにも非常に手間がかかるんですよ。
植物とPEACE AND AFTER(平和)。ミリタリースタイルを採用した意図
そんな「RAW LIFE FACTORY」ですが、ギズ屋台のロゴデザインも担当しているCalvin Chanさんのブランド「Peace and After」のプロデュースにより、アパレルラインがスタートすることに。このプロジェクトについて、「Peace and After」のデザイナー、MORIYUKIさんにお聞きしました。
──「RAW LIFE FACTORY」のアパレルをプロデュースすることになった経緯を教えてください。
MORIYUKI:はじめはデニムマスターとして知られる大坪洋介さんから田島さんをご紹介いただいた縁でした。僕らの強みであるアパレルを田島さんの作品とうまく組み合わせて、何か一緒におもしろいことができないかと考え、「RAW LIFE FACTORY」を「Peace and After」なりに解釈してアパレルに落とし込むプロジェクトをこれから展開させていただくことになりました。
田島:先ほどお話しした通り、植木鉢を植物の洋服のような感覚で作っていたので、こういう取り組みができることが夢のようですね。
──どんなラインナップになるのでしょうか?
MORIYUKI:最初のコレクションはTシャツ2型、カーゴパンツ、ハット、あとはキャップです。田島さんは陶芸を作るだけでなく、園芸もされているので、そのライフスタイルに馴染んで実用的に使えるものをと考え、ベーシックな使いやすいアイテムを今回のラインナップにしました。
田島:Tシャツにはダメージ加工を施したものもあるのですが、自分も植木鉢に風化したような加工をすることが多いので、サンプルをいただいたときに「これは!」と思いました。心遣いが伝わってきてちょっと泣きそうになりました。
──最後に、このアパレルラインは今後も継続される予定でしょうか?
MORIYUKI:はい。今もどんどんデザインをつくっていて、田島さんに確認していただきながら、今後も良い商品を作っていきたいと思っています。
自然からのインスピレーションと夢に見た「黒」の追求によって、植木鉢にイノベーションを起こした「RAW LIFE FACTORY」。
その世界観が「Peace and After」とのアパレル展開によって、さらに身近なものになりそうです。
Source : PEACE AND AFTER, RAW LIFE FACTORY , CAPSULE JPN